家族の絆が支える豊かな未来

イケア・ジャパン代表取締役社長  ヘレン・フォン・ライス

企業で活躍する女性個人と、女性が活躍している企業の両面をスポットライトを当てて表彰する「JAPAN WOMEN AWARD 2016」で、1000社以上の企業が参加した「企業部門 総合ランキング 従業員数1000名以上の部」において3位を受賞されたイケア・ジャパン。スウェーデン発祥で、ヨーロッパ、北米、アジア、オセアニアなど世界各地に出店を広げる、世界最大の家具小売店です。イケアは今、2,700弱程度の社員のうち女性の数が66%を占めていて、女性管理職は47%にもなります。このような数字は自然にあらわれるものではありません。なぜこれほどまでに女性が活躍できる会社となったのか。
人々の暮らしに寄り添う会社だからこそ実現したその背景や思いを、イケア・ジャパン代表取締役社長のヘレン・フォン・ライスさんにインタビューしました。

より快適な毎日を、より多くの方々に

ーまず、イケアという会社が設立された経緯を教えて頂ければと思います。

イケアはイングヴァル・カンプラードという起業家が若いときにスウェーデンで設立した会社です。彼は人とやりとりするのが大好きな人間で、子どもの頃からご近所の方を相手にビジネスを展開していました。それがはじまりになります。

事業を展開していくうちに、カンプラードは国内での家具の需要に着眼し、家具にも進出しはじめます。家具で本格的にビジネスを展開し始めた頃、ちょうど国民の車の所有率が上がり、ヨーロッパの経済も上向きになってきたのです。イケアの自動車で持ち帰りやすいフラットパックは、こうした事情を背景に、より求めやすい価格で家具を提供するために考え出されたアイディアでした。

ーイケアが事業に対して持っているビジョンについては、どのようなものがあるでしょうか。

カンプラードはビジネスをしながら、多くの人々がより低価格で、機能的で美しい家を作りたいと考えていることに気づきました。それが『より快適な毎日を、より多くの方々に』という我が社のビジョンにつながっています。世界中を見渡しても、ほとんどの人が何らかの家に住んでいると言ってもいいでしょう。その家でどれだけ快適に日々を過ごしてもらうか、というところにこだわっているんです。

私はもともとスウェーデンが生まれですが、アメリカと中国での勤務を経験してきました。場所が変われば文化も変わりますし、当然家も変わります。各国の市場、ニーズにお応えするということはとても大切だと思っています。

ー日本は子供の少ない家庭も増えていたり、家も狭かったり、車を持てない家庭も増えてきているという事情もあります。日本の家庭に対しての印象はどのようなものでしょうか。

日本は確かに他国に比べて車の所有率が低いですよね。またサービスが非常に行き届いた国ですので、組み立てなどもできれば誰かにやってほしい、という声も多くあります。

イケアが展開をはじめた頃とは、環境も異なってきています。当時のターゲットは明確にファミリーでした。「Living With Children」というキーワードがあったのですが、子供を育てている家庭が、そんなにお金はかけられないんだけれどももっと家をよくしたい、というニーズが大きかったんですね。しかし現在では「Living Single」がキーワードになってきています。進学したり就職したりして一人暮らしをはじめるときに、家を機能的で美しいものにしたいというニーズが大きくなってきているように思います。

ーこれからの日本の事業展開については、どのように考えていますか。

海外から来た外資系の企業としては、日本人の皆様の暮らしを勉強させていただくというところが一番重要だと考えています。象徴的なのはキッチンですね。面積が小さいキッチンと大きいキッチンがあったとして、どちらが「広い」「狭い」の判断はできません。キッチンにはたくさんの電化製品があります。大きいキッチンの方が電化製品も大きいかもしれませんので、ユーザーはどちらも狭いと感じているかもしれませんから。また、作る料理も国によって全く異なります。フライパンひとつ、鍋ひとつとっても、それがどんな風に使われるのかまでを考えなくてはならないのです。

本当の意味でのニーズを把握するには、生活する人のスタイルに沿うことが重要ですね。その人が何時に起きて、どんな風に家の中で一日を過ごすのか。そのことを理解することが、何より重要です。さらに家族構成、年代別にもニーズはかなり異なっているため、詳しいリサーチは欠かせません。日本だけでなく、今後も様々な国で『より快適な毎日を、より多くの方々に』というビジョンの実現を目指したいと思っています。

社会が発展するには女性も含めてみんなが活躍しなければ

ー続きまして、女性活躍に対する思いをお聞かせ下さい。

自分が非常に幸運だなと思うのは、スウェーデンに生まれたことです。スウェーデンは平等を信条に、男性も女性も一緒に働くということを長い間重視してきた国です。保育園に関しても、スウェーデンはすべての子どもが入れるようになっています。日本で問題になっているような待機児童はいないんですね。女性が活躍するために、預け先があるという基本的なことは重要だと思っています。

ースウェーデンで、「男女が共に働ける環境」を後押ししている要素は他に何かありますか?

まずスウェーデンは教育の段階から男性も女性も同じくらい大学に進学していますので、キャリアのスターティングポイントが一緒なんですね。スウェーデンはもともと小さい国ですので、発展するには女性も含めてみんなが活躍しなければという気概があります。一つの国に男性が50%、女性が50%暮らしているとしたら、すべての人が経済能力を発揮して100%活躍することで、国も発展していくのではないかという認識です。

そして非常に重要なのは、パートナーとの関係だと思っています。私自身も結婚したときに、「一緒に家庭を作ってキャリアを発展させていくことで、自分たちの世界もよくしていこう」と夫と話し合いました。

ワーキングマザーとしてベストを尽くす

ーヘレンさんの仕事の哲学をお聞かせいただいてもよろしいでしょうか。

仕事の哲学は、ワーキングマザーとしてベストを尽くすというところです。私には娘と息子がいます。家事をしながら仕事をするのは大変なことではありますが、それを子どもたちにしっかり見せるようにしています。そうすることで、社会にどのような貢献ができるかということを伝えることができますし、世界を広げるきっかけにもなってくれるのではないかと思っています。

ーヘレンさんにとって具体的にどのあたりがワーキングマザーとして大変な部分ですか?

時間がないところですね。たまに会社にいても「あっ、お弁当作らなきゃ」とか「そろそろ子どもたちのためにケーキを焼かなきゃ」とか、そういうことを思ったりするんです。でも結局時間がなくてできないこともあります。あとは出張すると、息子が「また行かなきゃいけないの」と言うんです。そういうときは、やはり大変だなと思います。

子育てはどうしても女性に偏りがちだと思うのですが、息子が「また行くの」と言ったときには必ずこのように説明するようにしています。「お父さんと一緒に過ごせるチャンスだよ」「お父さんと仲良くなれるし、お父さんと一緒に仲良くなればなるほど、家族全員でもっと楽しめるんだよ」と。

ワーキングマザーの大変さは、万国共通だと思います。男性が家事や子育てなどに積極的に参加してくれる社会ももちろんたくさんあるとは思いますが、多少の差はあれ、母親と社会人を両立させる大変さの本質は変わらないように思います。

ー女性が活躍できるために、会社が取り組むべきこととはどのようなことでしょうか。

社員にフレキシブルな環境を提供することです。会社として、働き方に柔軟性を与えるということが非常に重要だと思っていて、そこは私がCEOとして役割を発揮できるところだと思います。私自身二人子どもがいるので、ワーキングマザーの状況はよく理解できています。たとえば子どもが病気の時は家から仕事をしても構わないとか、そういった環境を整えて柔軟に対応しています。

家族でチームワークを

ー少子高齢化も進んでいますし、本格的に男女が性差なく活躍していかなければいけない時代になってきていると思います。これからの時代を作っていく日本の女性たちに何か言葉をいただけるとうれしいです。

女性へのメッセージということなのですが、女性にも男性にもメッセージがあります。まず女性からです。ぜひ、家族やパートナーとなんでも話せるオープンな関係を築いてください。家族から働くことを支援してもらえる環境を整えることが大切です。女性が働くのは社会にとって良いことなのだということを、家族全員が理解することが重要だと思います。家族でチームワークを育てましょう、ということですね。

続けて男性に申し上げたいのは、管理職に男性が非常に多いという点に疑問を持っていただきたいということです。日本に生きる人の50%は女性であるというところから、もっと女性を昇進させることをぜひ考えていただきたいと思います。なぜこの仕事をするのが女性ではいけないのかということを常に問うて、女性の活躍をぜひサポートしてください。

ビジネスの成功のために女性の活躍は欠かせないところになると思います。たくさん多様な意見を取り入れることで賢明な決断ができますし、男性も女性もいろんなバックグラウンドがあると思いますが、その豊かな経験を活かすためにも、女性の活躍は欠かせないと考えています。